お子さまの矯正治療
このページはとくにお父さま、お母さまなど保護者の方に読んでいただきたいページです。
ここではお子さまの矯正治療、いわゆる第1期治療についてご説明します。
具体的には、乳歯だけの時期、および乳歯、永久歯のまざった歯列の時期(混合歯列期)のお子さまの矯正治療をさしています。年齢でいえば4歳から11歳ぐらいまでの時期です。
もちろん、出っ歯(上顎前突)、受け口(下顎前突)、乱杭歯(叢生)、開咬とその症状はさまざまですが、基本的には骨格型の不正をいかに正しい方向にコントロールしていくか、にあります。そしてそれを通して将来永久歯列が完成した段階での患者さんのご負担を少しでも軽くできるような処置を考えていくことです。そのために問題点の整理と、「今しておかないと後でお治しが大変になる問題は何か」という、優先順位の設定が重要になります。
この患者さんは8歳の時点でクリニックにご相談におみえになりました。前歯がきちんと噛んでいないのでおかしい、ということでした。
検査の結果、前歯が噛まない(開咬)のは、舌が前に出てくる日常的な「癖」が原因であり、さらに骨格的な受け口の傾向が明らかになりました。また全体に永久歯のサイズが大きく、将来的にはかなりひどい八重歯になることが予測できました。永久歯列が完成する段階まで待って「開咬]と「受け口」と「八重歯」を一度にまとめてお治しすることは、不可能ではありませんが、非常に難しいことです。そこで最初にこのお子さまにとった第1期の処置は、「癖」に対するアプローチです。
タングクリブという器具を上顎の内側にセットし、舌が前に出てこないようにするとともに、舌の動かし方の訓練を開始しました。その結果、上の右のように不完全ながらも前歯が噛み合うようになりました。ここまでで約1年かかっています。次は第1期治療の後半ですが、受け口を可能な限りお治しし、上前歯4本をきれいに並べていく処置です。(約1年間)
上の歯列の外側に部分的に装置をセットして治療を続けていきます。ここでいったん装置をはずし、永久歯が生え揃うのを待ちました。(約4年半)
永久歯が揃った15歳の時の写真です。
最初の予想どおり、かなりひどい八重歯の状態になっています。また受け口傾向も残っています。おそらく第1期治療がなければ、もっとひどい受け口になっていたであろうと思われます。ここからが第2期の治療となります。この段階では総まとめの矯正として最終的に残ったすべての問題を解決します。4本の永久歯を抜歯しましたが、上下のすべての歯に装置をセットし、きれいにお並べしていきます。
治療が終了した段階の写真です。17歳のとき。第2期治療には2年半かかりました。このように、この患者さんは8歳から17歳まで9年間矯正治療をしたことになります。しかし、そのうち、矯正装置が入っていたのは4年半だけです。途中で装置のまったくない時期が4年半ありました。とても長い時間の流れですが、それぞれの時期で治療目標を明確にして治療を進めているのがおわかりいただけるかと思います。
ここでは典型的な2段階治療の一例をご説明しましたが、第1期の矯正治療ではこのほかにも「矯正装置」のページでご紹介しました「ヘッドギア」や「フェイシャルマスク」など、年齢、治療内容に応じてさまざまの矯正器具が使われます。
子供の時期の短期間に矯正治療をしただけで、理想的な大人の歯ならびが得られるというのであればそれに越したことはありません。実際そういう方もいらっしゃいます。しかし多くの場合、お子さまの不正咬合(悪い歯ならび)は、ある時間がこないと開かないドアのたくさんある家に似ています。無理に治療するよりも、辛抱強く待つしかない時期もありますし、その時期が来たらすみやかに適切な治療に移る、という決断も必要です。
私ども矯正専門医はこのような長いスパンでお子さまのあごの成長と歯ならびの変化をとらえる訓練を受けています。どのような歯ならびであれ、一度、お見せいただければ適切なアドバイスができると思います。お気軽にご相談ください。